あなたのケータイにも是非! 新機能・ルスデン子ちゃん

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『ただいま電話に出る事ができません。発信音のあとに、お名前と、ご用件をどうぞ――』
『○uお留守番サービスに転送します――』
まだそんな、ありきたりな応答メッセージですか? ルスデン子ちゃんなら着信元をグループで判別して、友達には友達向けの、家族には家族向けの、それぞれ最適な応答メッセージを流します!
業界注目の新機能・ルスデン子ちゃん! あなたのケータイにも是非!


 そんな宣伝文句が書かれたカラフルなポップでは、アニメ絵の女の子がケータイを片手に笑顔を咲かせていた。大きな目、健康そうに笑う口元。そこそこ可愛いけれど、あまりにもベタなネーミングをされたこの子が不憫でならない。
 けれどもっと不憫なのは、知り合いからストーキングをされて、電話番号を変えざるを得なくなった私だろう。ルスデン子ちゃんの笑顔を眺めながらそう思う。
 本っ、当に、ムカつくなあアイツ。元バイト先の、上司だった。職場でもセクハラオヤジと悪名高かった、最低野郎。おかげで、せっかく稼いだバイト代のうちかなりの額を、ケータイショップで払う羽目になってしまった。
 そして、新しい番号と同時に、私のケータイにはルスデン子ちゃんがやってきた。それにしても、なんだろう、この新機能。果たして必要なんだろうか。まあ、よく分からないけれど、マナーモードの時なんかはよろしくねルスデン子ちゃん。




 存在意義そのものに疑問を抱いたルスデン子ちゃんだったけれど、しばらく使ってみると実によくできた子だと分かった。母親からの電話にも、仲の良い友達からの電話にも、あげくにはバイト先からの電話にまでもルスデン子ちゃんは完璧に応答した。
 ある日、友人が私に電話をかけると、こんな応答メッセージが流れたらしい。
『今ちょっと車を運転していて、電話に出られませんー。ごめんね、あとで電話します! 急ぎの用だったらメッセージどぞ!』
 そう。登録されている番号からの着信なら、名前を聞く必要がない。なんだかこれだけで親密度が増す気がする。しかもドライブモードだったのを完璧に把握している。偉いよルスデン子ちゃん。
 また別の日、なんだか意識がぼうっとして起き上がれなく、バイト先から掛かってきた電話に出るのも億劫で、どうにかルスデン子ちゃんに繋げた。
すると彼女はすらすらとこんな風に語り上げたのだ。
『申し訳ありません、体調を崩して寝込んでおりまして、電話に出ることができません。発信音のあとに、ご用件をお願いいたします。後ほど折り返しご連絡いたします』
おお、素晴らしい空気の読みっぷり。秘書かい君は? 体温を感じるセンサーでも積んでいるんだろうか。ちなみに、時間変更の連絡だったけれども病気ならば今日はゆっくり休んで明日出てこいとの旨、メッセージに吹き込まれてあった。ルスデン子ちゃん、ありがとう!
『ただいま電話に出る事ができません。発信音のあとに、お名前と、ご用件をどうぞ――』
 これは勧誘の電話だったのだが、いやあ、今思うとただのデフォルトの応答メッセージだな。さすがのルスデン子ちゃんも、登録されていない番号にはこれで応えるしかないわけか。なるほど。
 ケータイをマナーモードに切り替えるたびに、私は、ルスデン子ちゃんの活躍を思い出す。そして、またよろしくねと、サブディスプレイを撫でる。




 友人と待ち合わせて映画館へ行ったときも、私はいつも通りケータイの表面を指先で少し撫で、そしてバイブオフのマナーモードに切り替えた。
 観客席はほぼ満員で、仕方なく友人と離れ離れに座ることになった。けれど、どうしても見たくてクランクインの頃から楽しみにしていた映画だ。一人になってでも見たかった。
 上映が終わり、仕上がりに満足しながら伸びをしていると、隣に座っていた人が先に席を立った。どうぞ、と脚を引っ込めた次の瞬間、私は――……。





『映画館でストーカーに胸を刺されたため、電話に出る事ができません。お名前とご用件を、110番でお願いします。――映画館でストーカーに胸を刺されたため、電話に出る事ができません。お名前とご用件を』
 映画が終わってもなかなか姿を見せないのでついに待ちわびた友人からの着信に、赤く染まったルスデン子ちゃんは、そう応えた。
いつにも増して、完璧な、応答だった。