そんな私は10月のインプットと金曜夜のオタ談義に端を発して、勢いだけで、珍しくオリジナルなんて書いていました。
最近は素で書くとこんな感じ。あとで推敲する。とりあえず載せておく。引用のところ色変えるか枠線で囲むかしなきゃなー、と思っている昨今。
タイトルは考えていません。

 僕は、ずっと見ているだけなんだ。


 彼女はいつも、彼のそばで微笑んでいた。肩にかかる髪を揺らして、大きな目を和らげて、可愛く声をたてて笑いもした。そんなとき、彼女のそばにはいつも彼がいたのだ。僕ではなくて。
 彼女のそばにいる彼は、僕とは違って上背もある、運動神経もいい、もちろん顔立ちだって僕には及ばなく、僕が彼にかなう筈はない。そんなことは分かっているけれど、もしあの場所にいるのが僕だったなら――そんな想像をして、虚しくなってしまうような馬鹿な日々を送っているのだ。僕なんかが相手にされるわけない。最初っからそう決めてしまっているのが、そもそもの僕の敗因なのは分かっているんだけれど。


 彼女は、本を読むのが好きだ。彼がいない時はひとりで何かの本を読んでいる。仲の良い女の子もいて、よく本を貸し借りしているのを見かける。文庫にはいつも淡いオレンジの可愛らしいカバーがかかっていて、何を読んでいるのかは分からなかったけれど。教室の机で、今日も頬杖をついて文庫本に目を落としている彼女が、不意に顔を上げて誰かに笑いかけて本を閉じる。
 僕は、はっとする。
 僕の憧れを手に入れている彼が、彼女の少し先で手を振っていた。
 そうして、僕は、彼らの世界にまじわることもなく、離れた席でぼんやりと過ごしている。


 学校に居るとき以外の彼らを、僕は知らない。
 知る術があったとしても、知りたくない。二人きりで、どんな風に過ごしているのかなんて。
 どんな風に彼は彼女を愛するのだろう? どんな風に彼女は喜ぶのだろう?
 そんなことを考えたって、僕のみじめさが増すだけだった。


 僕はきっと、見ているだけなんだ。
 彼と彼女が一緒に学校へやってくるのを。休み時間に会話をしているのを。バスケをしている彼を彼女が応援しているのを。そして、汗をかいて活躍した彼が、彼女にタオルを渡されて嬉しそうに笑うのを。
 羨ましい、と思っているのはきっと僕だけじゃないはずだ。もはや公認になっている二人の邪魔をしようとする存在を、今のところ僕は知らない。僕自身にすらそんなつもりはない。それでも、内心で、あの関係を羨んでいる男は他にもいるはずだ。
 そして、そんな一人で暗い思いを抱いている僕を、ずっと見ていた女の子の事を僕は知らなかった。
 ある日、隣の席に座っている女の子に貸した辞書が手元に帰ってきたとき、中に挟まれた手紙を見つけるまでは。


『あなたが、他の女の子をずっと見ていることに気が付いたのは、
 わたしが、あなたのことをずっと見ているからです。
 あなたが、そのことに気が付く日は来るのでしょうか?
 あなたのことが、好きです』


 目眩を覚えた。僕は彼女たちを見ているとき、充分に気をつけていたはずなのだ。あからさまに他所のカップルを見ているなんて、他に分からないように。そもそも、普段から僕自身の存在を薄めるように努めているのに。
 辞書をひいたのは昼休みだった。幸いかどうか、隣の席の女の子はそこに居なかった。
 僕は、どうするべきだろう?
 手紙には「好きです」と書いてあった。まっすぐな言葉。僕が、憧れの人に言えない言葉。なんだか急に体が熱くなった。好きな人をずっと見ている気持ちが、僕には痛いくらいに分かる。その相手が、たとえ他の誰かを好きであることが分かっていても。だからこそ「つきあってください」と書けなかった思いまで、まるで手にとるように。
 脳の裏側を殴られたような痛みが、じわじわと襲う。
 でもきっと僕は、この整った字を書くクラスメイトを傷つけることになるのだろうと思った。
 放課後、謝ろうと決めた。そのまっすぐな気持ちに応えられないこと。僕はきみが考えているような男ではないこと。そして、手紙をくれたのは嬉しかったことも伝えよう――。


 

 こんな僕を許して欲しい。
 だって、僕は、彼を愛しているのだから。


…もっと嫉妬でドロドロなのを書こうと思っていたのにな。